
嘔吐
嘔吐
「急に吐いてびっくりした…でも熱はないし、様子を見てもいいのかな」
「何度も吐いていて、脱水が心配」
「病院に行くべきタイミングがわからない…」
小さなお子さまが突然吐くと、保護者の方はとても驚き、心配になりますよね。嘔吐は乳幼児にとってよくある症状のひとつですが、一時的なものから命に関わるような病気まで、原因はさまざまです。
このページでは、小児科専門医の視点から、嘔吐の見分け方、考えられる原因、受診のタイミング、家庭での対応、治療方法などをわかりやすくご紹介します。お子さまが嘔吐したときに、慌てずに行動できるようお役立ていただければ幸いです。
嘔吐の治療では、まず原因を見極めたうえで、脱水を防ぐことを最優先に対処していきます。
治療の基本方針は以下の通りです:
診察では、次のような項目を総合的に確認します:
✓ 何度も嘔吐し、12時間をこえて水分がとれない
✓ 嘔吐とともに高熱やぐったり感がある
✓ 血が混ざった嘔吐、コーヒー色・緑色の嘔吐
✓ 頭を打ったあとに嘔吐した
✓ 吐いたあとも繰り返し泣き止まない、またはぼーっとしている
✓ 嘔吐に加え、おなかを激しく痛がる
①:突然の嘔吐
急に吐き、驚かれるケースが多いです。多くはウイルス性胃腸炎や一時的な消化不良などが原因ですが、繰り返す場合や他の症状があるときは注意が必要です。
②:繰り返しの嘔吐
短時間で何度も吐く場合、脱水リスクが高くなります。水分がとれない、尿が減っている、ぐったりしている場合は医療機関を受診しましょう。
③:吐いたあとのぐったり感
吐いたあとに元気が戻らない、反応が鈍いなどの場合は重症疾患の可能性があります。すぐに受診が必要です。
④:咳き込みによる嘔吐
強い咳が続いた後に吐くことがあります。風邪や後鼻漏、咳喘息などが背景にあるケースです。咳そのものの治療が必要です。
⑤:食事やミルクのたびに吐く
乳児の場合、ゲップが苦手で嘔吐につながることもあれば、胃の出口が狭くなる病気、逆流症によってミルクを吐くことがあります。体重が増えていない、機嫌が悪いなどがあれば病的な嘔吐の可能性があります。
①:ウイルス性胃腸炎
最も多い原因です。ノロウイルスやロタウイルスなどが代表で、嘔吐のほかに下痢や発熱を伴うことがあります。家庭内感染にも注意が必要です。
②:食べすぎ・消化不良
一時的に胃に負担がかかり、吐いてしまうことがあります。食後すぐの激しい運動や、油っこい食事などが原因になることもあります。
③:腸重積症
乳幼児に多い腸の緊急疾患です。繰り返す嘔吐と激しい腹痛、いちごジャム状の血便が特徴です。放置すると腸が壊死する危険もあるため早期対応が必要です。
④:頭部外傷・脳の異常
激しく転倒し頭をぶつけたあとに吐く場合、脳震盪や頭蓋内出血の可能性もあります。また、けいれん・意識低下・首の硬直などがある場合は脳炎や髄膜炎の可能性もあります。
⑤:心因性の嘔吐
登園や登校前に繰り返す嘔吐など、ストレスや不安が関与しているケースもあります。心理的な要因も視野に入れて対応する必要があります。
①:水分補給のタイミングと方法
吐いた直後は無理に飲ませず、30分ほど経ってから少量ずつ(スプーン1杯程度)頻回に与えるのが基本です。経口補水液(OS-1など)が最適です。
②:無理に食べさせない
食欲がないときは無理に食事を与える必要はありません。嘔吐が止まり、水分が摂れるようになってから、消化の良いもの(おかゆ、りんごのすりおろしなど)を少量ずつ与えましょう。
③:安静に過ごす
吐いた後は体力が消耗しています。室内で静かに過ごさせ、しっかり休息をとりましょう。
④:感染予防(ウイルス性胃腸炎の場合)
家族への感染を防ぐため、手洗いや消毒、嘔吐物の処理には注意が必要です。石ケンでの手洗いや、床などは塩素系の消毒液(次亜塩素酸ナトリウム)が効果的です。
⑤:排尿と機嫌のチェック
水分がとれていれば尿が出るはずです。排尿の回数や機嫌、反応などを観察し、変化があればすぐに受診しましょう。
①:経口補水・点滴治療
軽度の場合は経口補水液で対応しますが、吐き気が強く飲めない場合は点滴治療が必要です。
②:吐き気止めの使用
必要に応じて、吐き気を抑える薬を使用します。症状や年齢によって、内服薬や座薬、点滴に含まれる薬が選択されます。
③:整腸剤の使用
ウイルス性胃腸炎や軽い食あたりなどでは、腸内環境を整える整腸剤が有効な場合があります。
④:原因疾患の治療
腸重積や虫垂炎、脳炎などが原因の場合は、原因に応じた専門的な治療(整復、手術、ステロイド投与など)が行われます。
⑤:心理的サポート
心因性の嘔吐が疑われる場合は、生活環境の見直しや、必要に応じて心理的サポートをや必要に応じて内服薬の調整を行います。
Q:1回だけ吐いて元気そうです。受診は必要ですか?
A:1回のみで元気、食欲もあるようなら経過観察でも構いません。ただし、繰り返す場合や他の症状がある場合はご相談ください。
Q:吐いたあと水を飲ませたら、また吐きました。どうすれば?
A:すぐに飲ませると再び吐いてしまうことがあります。30分〜1時間ほど空けて、少量ずつ与えてみてください。
Q:吐いたものに血が混ざっていました。大丈夫ですか?
A:何度も吐くと、喉や胃の粘膜が傷ついて少量の血が混ざることもありますが、量が多い場合や続く場合は必ず受診してください。
Q:嘔吐があるとき、保育園や学校に行かせていいですか?
A:嘔吐後は一定期間、感染予防や体力回復のために自宅での安静が望ましいです。また、下痢を伴う時には便の中に腸炎ウイルスがいるため、ある程度下痢が落ち着いてからの登園となります。
Q:頭を打ったあとに吐きました。どうすれば?
A:頭部外傷後の嘔吐は、脳に異常があるサインの可能性もあります。吐くのも1回で元気であれば大丈夫ですが、意識状態や顔色などを確認し、悩むような状態であれば、すぐに受診してください。
嘔吐は、よくある症状だからこそ「様子を見ていいもの」と「すぐに受診すべきもの」の見極めがとても大切です。保護者の方の冷静な判断と行動が、お子さまの健康を守る第一歩となります。
少しでもご不安がある場合は、遠慮なくご相談ください。