
腹痛
腹痛
「おなかが痛い」と訴えるけれど、どこまで心配したらいい?
「すぐに治ることもあるし、でも、病気だったらどうしよう…」
「病院に行くべきか、もう少し様子を見るべきか迷ってしまう」
お子さまの「おなかが痛い」は、日常的によくある訴えのひとつです。しかし、中には命に関わるような病気が隠れていることもあるため、保護者の方にとっては判断が難しい症状でもあります。
このページでは、小児科専門医の視点から、子どもの腹痛の見極め方や原因、注意すべき症状、家庭でのケア、治療方法などについて、わかりやすくご説明いたします。お子さまの体調に不安を感じたとき、正しく判断し、必要な行動がとれるようお手伝いできれば幸いです。
腹痛の治療は、原因によって大きく異なります。まずは、「急を要する腹痛なのか」「しばらく様子を見てよい腹痛なのか」を見極めることが重要です。
治療の方向性は以下の通りです:
正確な診断と早めの受診が、安心につながります。
お子さんの腹痛は、以下のような情報をもとに診断します:
✓ 激しい腹痛でうずくまる、または動けない
✓ 嘔吐・発熱・下痢・血便などを伴う
✓ 顔色が悪く、ぐったりしている
✓ 半日以上、飲食や排便ができない状態が続く
✓ 右下腹部を押すと強く痛がる(虫垂炎の可能性)
✓ 泣き止まない・何度も「痛い」と繰り返す
①:突然の腹痛
ある時点から突然「おなかが痛い!」と激しく訴えることがしばしばあります。一番頻度が多いのは、便秘です。便秘の腹痛は、ひどいと「救急車が必要かも!!?」と思うぐらいひどいこともあります。ただ、ときには、虫垂炎(いわゆる盲腸)や腸重積症、精巣捻転(男児)など緊急性が高い疾患の可能性もあるため、突然のひどい腹痛は早めの受診がおすすめです。
②:繰り返す腹痛
数日または数週間にわたって、同じような痛みを繰り返す場合は、便秘、過敏性腸症候群、ストレス性の腹痛などが考えられます。
③:食後に起こる腹痛
食べた後すぐに痛がる場合は、胃腸の過敏、機能性ディスペプシア(これといった原因はないが腹痛が起きる病気)などが原因になっていることがあります。
④:排便・排尿と関連する痛み
排便時に痛がる、排尿時に腹痛を訴える場合は、便秘や膀胱炎などの関与が疑われます。
⑤:慢性的な軽い腹痛
おなかを押すと少し痛がる程度で、元気もある場合は、便秘やガスのたまり、ストレスなどが影響していることもあります。
①:便秘
非常に多い原因のひとつです(急な腹痛の一番の原因です)。硬い便が腸にたまることで腹痛が起こります。排便習慣、食生活の見直し、便をやわらかくする薬などで改善を目指します。
②:胃腸炎(ウイルス性・細菌性)
吐き気、嘔吐、下痢、発熱を伴うことが多く、ノロウイルスやロタウイルスなどが原因となります。水分補給を重視した対症療法が基本です。
③:急性虫垂炎(盲腸)
初期はみぞおちあたりの痛み、そのあと右下腹部の痛みに移動するのが特徴です。発熱・嘔吐・食欲不振などを伴い、時間とともに悪化します。痛みにあまり波がなく、ずっと痛くて徐々に強くなります。緊急手術が必要になることもあります。
④:腸重積症(乳幼児に多い)
腸の一部が他の腸に入り込む状態で、激しい腹痛とともに嘔吐、いちごジャムのような血便が出るのが特徴です。早期に整復処置が必要で、治療が遅れると命にかかわることもあります。
⑤:ストレス性腹痛・過敏性腸症候群
学校や家庭での緊張、不安、ストレスが原因で、検査では異常が見つからないタイプの腹痛です。子どもの心のサインとしても注目されています。
①:おなかを温める
軽い腹痛の場合、湯たんぽや蒸しタオルなどでおなかを温めると、筋肉がほぐれて痛みがやわらぐことがあります。
②:水分をこまめにとる
嘔吐を伴う時は、脱水を防ぐために、少量ずつ水分をこまめに与えましょう。吐いた直後は胃がびっくりしているので、30分~1時間はおやすみしてから、こさじ1杯から飲ませてください。水、お茶でもよいですが、とくに経口補水液が適しています。
③:無理に食べさせない
食欲がないときは無理に食べさせる必要はありません。胃腸を休ませることが大切です。回復してから食べやすいものから始めましょう。
④:排便・排尿の観察
いつ、どんな便・尿が出ているかを確認しましょう。便秘や血便、尿の回数や色の変化は診察時の重要な手がかりになります。
⑤:症状の記録をつける
腹痛のタイミング、場所、持続時間、伴う症状などをメモしておくと、診察時に原因の特定につながりやすくなります。
①:対症療法(整腸剤・制吐剤)
軽度の胃腸炎や便秘などでは、整腸剤や吐き気止めを使用しながら、体の回復力を助ける治療を行います。
②:排便コントロール(便秘治療)
食物繊維の摂取、水分補給、生活リズムの見直しに加え、必要に応じて便をやわらかくする薬を使用します。長期的な改善が大切です。
③:抗菌薬(細菌性腸炎・尿路感染など)
細菌感染が疑われる場合には、適切な抗菌薬を使用して炎症を抑えます。膀胱炎の場合は、尿検査を行ってから処方します。
④:外科的処置(虫垂炎・腸重積など)
緊急性の高い疾患では、外科的な処置が必要です。早期発見・早期対応により、重症化を防ぐことができます。
⑤:心理的サポート(機能性腹痛、過敏性腸症候群)
ストレスが関与している場合には、学校生活や家庭での不安をやわらげる関わりが必要です。必要に応じて投薬調整、カウンセリングや心理支援を行います。
Q:おなかが痛いとよく言うけれど、元気もあるし食欲もあります。様子を見てよいですか?
A:痛みが一時的で、食事・排便・睡眠に問題がないようなら様子を見ても構いません。気になる場合はご相談ください。
Q:便秘があると腹痛が起こるのですか?
A:はい。便が腸にたまると圧迫されて痛みを感じることがあります。特に左下腹部を痛がることが多いです。腹痛に波があるのが特徴です。
Q:腹痛だけで病院に連れて行くのは早すぎますか?
A:腹痛だけでも受診が早すぎるということはありません。ただし、顔色が悪い、ぐったりしている、痛みの程度が強い、などがあれば早急に受診することをおすすめします。
Q:泣いて痛がるけど、すぐにケロッと元気になる…これは大丈夫?
A:一過性の腸の動きによる痛みのこともあります。特に便秘やガスがたまっているときによく見られます。気になっていると思いますので、一度受診していただき、診察をうけていただくのがおすすめです。
Q:下痢や嘔吐がないのに腹痛があります。何かのサインですか?
A:便秘やストレスなどが関係している可能性もあります。見極めが難しいため、長引くようならご相談ください。
子どもの腹痛には、「自然に治るもの」と「緊急対応が必要なもの」があります。保護者の方のちょっとした気づきが、お子さまの命を守ることにつながるかもしれません。
少しでも不安があれば、お気軽に小児科へご相談ください。