梅雨もあけ、暑い夏が本格化してきましたが、みなさん体調崩されてませんでしょうか?
7月中旬以降、咳がひどく長引く患者さんが多く来院されています。4月ぐらいにも咳がひどい人が多い印象がありましたが、また増えてきているように感じています。結果的に単なるカゼだったという人も多いですが、なかなか良くならないケースの中にマイコプラズマに感染している人もチラホラ増えています。今回は、このような状況についてお伝えし、マイコプラズマ感染症について、また咳がひどい人の治療選択枝について解説いたします。
〇咳のひどい人が増えています。
カゼの症状は鼻水と咳が基本で、流行するウイルスなどによって鼻水がひどいタイプ、咳がひどいタイプ、はたまた痰がからみやすいかどうか、とバリエーションがあります。ここ最近は鼻水より、咳がひどい人が目立つ印象で、中には寝れないぐらいの咳が1カ月ほど続くひともチラホラみられてきています。
このような長引く咳の原因としては、ウイルス感染(いわゆる通常のカゼ)が一番多いですが、マイコプラズマや百日咳なども考えないといけなくなります。また、アレルギー性の咳や、喘息の可能性も考えなくてはいけません。
〇隠れているマイコプラズマや百日咳に注意
咳が長引く原因の中でも、特に注意が必要なのがマイコプラズマ感染症と百日咳です。これらは一見すると普通のカゼのように見えますが、適切な治療を行わないと長期化する可能性があります。
マイコプラズマ感染症は、激しめの乾いた咳が特徴です。小さいお子さんというよりは、やや大きめの小学校高学年や、中学生、高校生など、体力がしっかりあるという年齢の子でひどくなることも特徴のひとつです。
百日咳も普通のカゼと似ていることもありますが、ひどくなると専門用語でwhoopingという発作的な息つぎも難しいような激しい咳が現れます。年齢が小さいお子さんはワクチン(四種混合ワクチンや五種混合ワクチン)を打っていることが多いので、強く心配する必要はありませんが、小学校高学年以上で、抗体価が下がってしまうことによって感染してしまうお子さんもでてきます。
マイコプラズマや百日咳は一般的なカゼ症状と似ているところもあり、診断が難しく見逃してしまいやすいのが問題です。
マイコプラズマ感染症では、比較的元気な割に、咳がひどいという特徴をもちます。大きい子で、診察中にもかなりケホケホしていて、その割には本人ケロッとしている、という時にはかなりマイコプラズマがあやしいです。
〇マイコプラズマの検査は可能です
当クリニックでは、マイコプラズマ感染症の迅速検査を実施しています。患者さんのノドを綿棒でこすり、検査をします。約15分程度で結果が出ます。
注意点として、偽陰性(実際は感染しているのに検査結果では陰性となること)の可能性があります。そのため、症状や経過から強くマイコプラズマ感染症が疑われる場合は、検査結果が陰性でも治療を開始することがあります。
〇マイコプラズマには抗生剤を使用します
マイコプラズマ感染症と診断された場合、通常は抗生剤による治療を行います。マイコプラズマに効果的な抗生剤としては、マクロライド系(クラリスロマイシン、エリスロマイシンなど)やテトラサイクリン系(ミノサイクリンなど)が一般的です。
(ちなみに、クラリスロマイシンはかなり苦いです)
ただし、近年ではマクロライド耐性のマイコプラズマも増加しており、初期治療で改善が見られない場合は、別の種類の抗生剤に変更することもあります。
抗生剤の服用期間は通常5日間です。
〇咳に使う他のお薬は?
マイコプラズマ感染症や長引く咳の治療には、抗生剤以外にもさまざまな薬を併用することがあります。症状や患者さんの状態に応じて、以下のような薬を使用します。
・咳止め
咳を抑える薬として、メジコン、アスベリンといった咳止めのお薬を使用します。しかし、全国的に不足していることから、処方箋を薬局にもっていっても在庫不足でもらえないことも最近はふえています。成人の方限定ですが、コデインリン酸塩といったお薬も選択枝に上がります。
代わりとして、痰の切れをよくするムコダインというお薬を使うこともあります。通常、こちらは痰に対して使う薬ですが、過去の論文では使っていると咳も和らいだ、というデータもあることから間接的な咳の効果を期待してお出ししています。
・漢方
咳の治療に漢方薬を用いることも多くあります。特に以下の2つの漢方薬を当院ではよく使用します。
- 麦門冬湯(ばくもんどうとう): 乾いた咳に効果があるとされています。のどの乾燥を改善し、粘膜を保護する作用があります。
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう): 鼻水や痰を伴う咳に効果があるとされています。アレルギーなどで鼻炎症状を伴う方にはとくにオススメです。
マイコプラズマの場合は、乾いた咳のことが多いので、麦門冬湯をお出しすることが多いです。ただ、この2つは漢方の中では飲みやすいですが、されど漢方。小さい子にとっては、飲むハードルが高いことから、どうしてもの時の処方にしています。
・咳喘息の薬
長引く咳の中には、咳喘息と呼ばれる状態が隠れていることがあります。典型的な喘息の発作(ゼーゼー、ヒューヒュー)があった場合には診断しやすいですが、それらがないにも関わらず喘息の病態が存在するのが「咳喘息」です。カゼの治療や、マイコプラズマなどを考えた治療を行っても改善がなく、慢性的な咳症状が続くときに「咳喘息」を考えます。
専門的な検査機器があれば診断ができますが、当院ではありません。診断の目安としては、「喘息の治療に反応するかどうか」こちらが大事なので、あまりにも治りが悪い咳には喘息の治療をためすことも大事です。
咳喘息が疑われる場合、以下のような薬を使用することがあります:
- 気管支拡張剤の吸入(病院でよくするモクモクの煙を吸う治療)
- 抗ロイコトリエン拮抗剤の内服:気道の過敏性をおさえます。
- 吸入ステロイド薬: 気道の炎症を抑えて症状を緩和します。
これらの薬は、症状や重症度に応じて単独または組み合わせて使用します。喘息であれば、気管支拡張剤が比較的効果があるので、その反応性をみて判断していきます。抗ロイコトリエン拮抗剤(キプレス、シングレア、オノン、成分名ではモンテルカスト、プランルカスト)は使い始めて2~4週間ぐらいで効果を発揮するので、長めに内服することがオススメです。
最後に
長引く咳で悩んでいる方は少なくありません。上記の検査や治療を組み合わせて、少しでも過ごしやすくできるように努めていきます。咳でお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。